「すいませ~ん・・あのよろしいですか?」
タカユキは、管理人室と書いた部屋の小窓を覗きながら言った。
事務机に足を上げながら、競馬新聞を読んでいた60代半ばの男はビックリして椅子から立ち上がった。
「はいはいなんでしょう?・・何でしょう?」
男は机の眼鏡をようやく見つけると、改めて「はい、なんでしょう?どういたしましたか?」といった。
「あの私、イシイ タカユキと申しますけど、先日・・あの事件のときの津山さんの友人なんですけど・・」
「はいはい、で、何か?」管理人は、タカユキがマンションの住人でないと分かると、急に邪険になった。
「あの・・それで、階段に花をたむけたいんですか・・・」
「あー駄目。駄目なんだよね。・・・そう指示されてんの。マンションの美観の問題とかなんとかで、駄目ってことになってんだよね。」
「そ・・そうなんですか・・」
「さっきも断ったの・・ベッピンさんと関西弁の男の子・・・ごめんね。」
管理人が窓を閉めようとするのをタカユキは制して
「あ、何時頃ですか、二人が来たのは・・」
「女の子は、3時頃だったかな・・男の子は・・その1時間くらい後かな・・」
「あっ別々ですか?」
「あー別々。別々だよ」
タカユキは礼を言うと、花と一緒にたむけるつもりだった、缶ビールのパックを管理人に渡した。
マンションのエントランスを出るとき、住人らしき40代前半の和服の女性とすれ違った。
何ともかぐわしい大人の女性の臭いがした。
なんていう香水だったかな?・・タカユキは、思い出せそうで思い出せない。
確か、ディーオールのジャル・・、ジャン・・・、まあいい・・。
タカユキはタバコに火をつけた。・・少しビーチでも覗いて行くことにした。
津山が刺されたあの日から、まだ、まだ2週間しか経ってないのに、ずっと昔の出来事のような
気がする。昼夜の違いこそあるものの、あの眩しかった海の景色は、急速にシーズンオフの色合いを見せていた。マンションから、直接ビーチに向かう細い道路で、タカユキは畑とばったり会った。
タカユキとカズヤとケンイチロウは、名古屋のテニススクールで一緒にコーチをしている。
そこのオーナー付き運営責任者が津山だった。3人はそれぞれ津山に声をかけられてスクールのコーチをやっていた。現場のレッスンに、津山はほとんど従事していなかったため、スクール自体の運営には支障はなかったが、それでも、津山の抜けた穴は小さくなかった。
「そっち、ウィルはどう?」
畑は、少し考えて言った。
「こちらも運営上の問題はさほどないんですけど・・やっぱり、舞ちゃんも加藤さんも・・みんな信じられなくて・・」
「そうだよね・・」タカユキも同感だった。
「タカユキさんとこはどうなんですか?・・カズヤさんとか・・ケンイチロウさんとか・・」
「カズヤは、どうかな・・津山さんのことと、エミコちゃんのこととダブルパンチだから・・俺も何にも聞けないし・・複雑じゃないかな・・ケンイチロウは、オーナーに相当プレッシャーかけられて、完全にテンパってるよ。」
二人は、しばらくして、なんとなく会話も途切れて、別れた。
つづく
1 件のコメント:
あ!第8話が抜けた!\(◎o◎)/!
カタカナと漢字の人物名にはどんな違いが?
実在がカタカナで?
あ!違う。。。Willは全員漢字だ(笑)
きっと、意味なし芳一ね~(-.-)
この話怖いのよ~。耳に呪文を書いてなかったので耳だけちぎられちゃったのよ~!
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