2010年7月28日水曜日

ビックサーブ

 バルコニーに射したじりじりとした暑さに目が覚めると、時計は7:00をまわっていた。
リビングでは、何人かの若者達が横になっていた。
僕は、彼らを起こさぬようシャワーを浴びると、海沿いに幌を開けたBMWを走らせた。

音楽はいらなかった。
海沿い奥の神社を右に曲がると矢沢に憧れて「キャロル」と名付けた小さな喫茶店がある。
マスターは似合わないフランクミュラーに、ドルガバのTシャツを身にまといながら、いつものおやじギャグをかましながらブラックコーヒーを淹れてくれる。
窓越しに路上駐車したBMWを見ながら
  「マスター、早く駐車場を借りてくれよ」。
  「海水浴にきた連中は、相手にしてないんだ。うちの常連は歩きばっかだからな」。
マスターの言い分は10年変わってない。
暑いブラックコーヒーをすすっていると、レッドソックスの野球帽をかぶった少年がBMWの横の狭い壁にピッチングをはじめた。
その少年は、その狭い壁にはふさわしくない速度のボールを投げ込んでいた。

嫌な予感がした。
嫌な予感は現実のものとなった。
バーン!
BMWが泣いた。
少年は振り向いて窓際の僕を見た。
僕は目をそらした。
そして、考えた。彼が悪いのではない。
そんな場所に車を停めた僕が悪い。
いや、駐車場を借りないマスターが悪い。
いや、違う。誰も悪くない。
しかし、BMWは泣いた。
悪いのは誰だ!?
・・考えた。
分かった。
悪いのはスローイング技術だ。
少年のスローイングは、外旋運動が浅く、常にボールは右に少しづつ逸れていた。
あのスローイングでは、ボールを真直ぐコントロールすることができないどころか、やがて肘や肩を痛めてしまう。
そして、彼が、いづれテニスを始めたとき、ビックサーブを打つことはできない。
スピンの利いた、畑コーチのようなサーブを打つことはできない。
僕は店のドアを開けると、少年に言った。
「外旋を利かしなさい!」。
分からなければ、瀬戸のウィルテニスアカデミーに来なさい。
 
少年は驚いた顔を浮かべ、はるかかなたへ走っていった。

1 件のコメント:

アラサーdeアラフィ さんのコメント...

文才があるというか、優れた空想力というか…今週もダンピョンワールドが広がりましたね~。
読み進みながらしっかり情景を思い浮かべる自分がいました(笑)
たぶん皆さんもそうでしょ?(^O^)/
面白かったです~。花〇

こんな才能がおありなので
趣味は【ショート小説創作活動】
そして特技は…【空想・妄想】でどうでしょうか。。!(^^)!

ダンピョンシ…このブログを書く時、いったい何を、どんな事を、想像しながら書くんだろうか(笑)

そのうちに…〇能小説もどきを執筆…
な~んて事は…

あり得ません!  はい!(-.-)