シングルバックのグリップチェンジがめんどくせー。
レシーブが返らないのは、俺のテニス技術の問題で俺のせいなんかじゃない。
畑山亮介のサーブは確かに素晴らしかった。
俺の未熟なテニス技術を差し引いたとしても、確かに素晴らしかった。
ただ、それは、畑山亮介が素晴らしいわけではなく、畑山亮介のサーブが素晴らしいだけだ。
俺のサイドをその弾丸サーブが通りすぎて行くたびに、俺はその男、ナルゴリ・リョウスケを無性に憎らしく思った。
なんと憎々しい若造だ。
俺は次第に、その若造の全てに腹が立ってきた。
パジャマのようなスェット。
アウトコールするそのしぐさ。
チェンジコートするときの歩き方。
全てだ。そう、奴の全てが憎かった。
ゲームも終盤に差し掛かっていた。
俺の怒りもまもなく頂点に達しそうなとき、ナルゴリ・リョウスケの弾丸サーブが相変わらず俺のバックサイドを突いた。
俺は、とっさにフォアグリップのままでラケットを出した。
そのレシーブは力無く、ナルゴリのペア、ケンイチロウにどチャンスボールとして上がった。
・・ダメだ・・。
そう思った瞬間、ケンイチロウは思いがけずそのチャンスボールをネットにかけた。
あまりにイージーなミスだった。
よくあることだ。
人間のすることに、ミスがないなんてことはない。
俺は、その不甲斐ないレシーブにがっかりして天を仰ごうとした瞬間だった。
イージーミスをしたケンイチロウの背中で、俺は見た。
照明の暗いインドアコートだった。
ほんの一瞬だった。
しかし、俺は見た。
確かに見てしまった。
それは、それまで彼が見せなかったものだ。
イラッとした顔だ。
ナルゴリ・リョウスケは、かすかに、しかし、はっきりとイラっした表情を見せたのだ。
俺は思った。
イケスカネー態度。
まるで俺たちなど眼中にないという態度。
まるで興味なんてないという態度。
それは、奴なりのセルフコントロールなんだと。
奴は名も知らない団体戦の試合であろうと、たかだかダブルスの試合であろうと、テニスが大好きで、試合に勝つために、ポイントを捕るために、真剣なんだと。
彼は、相手を呑みこむために、自らを冷静に保つために、イケスカネー野郎を演じていたのだ。
奴は、後日どこかで会ったとしても、この試合のことも、俺のことも覚えてないというだろう。
奴は試合に勝つために、相手を呑みこむために対戦相手を覚えないタイプだ。
俺は、その一瞬。
彼が見せたその一瞬のしぐさに、奴の人間を見た。
そして、奴を同じテニスを愛するものとして許した。
そして、愛してやろうと思った。
奴がたとえ、俺にツバを吐き捨てたとしても、俺はナルゴリ・リョウスケの全てを受け入れてやる。
若造!覚悟しろ!!
俺は、ミクロマンなんかじゃねー。
むしろ、マクロマンだ。
俺の使用ストリングはミクロスーパーだ。
プロショップがますます充実!!
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