2010年9月22日水曜日

第6話「けじめ」

 救急隊員の東田は、患者の患部を見て少しほっとした。
まさか、研修を終えて初めての現場出動で腹部を刺された患者を搬送するとは夢にも思わなかった。
また同時に人の生死に関わる仕事であるという事を改めて覚悟した。
(傷はそれほど深くなさそうだ・・良かった・・)


松本は、血の付着したグローブと衣服を万能ハサミで何度も何度も切り刻みながら、全てが何か悪い夢であってほしいと思った。
(刺す気なんかなかったんだ。あの男が、刺すぞって言うのに向かってくるから・・・俺に刺す気なんか・・・あの男は死んだんだろうか?・・いや、ちょっと刃の先が当たっただけじゃないか・・・いや・・凄い血だった・・)

ガチャン

「・・内村さん・・・俺・・俺・・」
内村は、ドアを閉めると靴も脱がずにその部屋に上がった。
「おい松本、お前しくじったなぁ・・おう?」内村は静かに言った。
「すいません。・・俺、・・あの俺・・」
「なんだよ。はっきり喋れよ。まあミスはミスだ。お前の処遇は俺の一存じゃ決められねぇ。」
「あの・・あの男は・・・生きてるん・・」
「知らねーよ!」内村は言下にどなり声をあげた。
「お前は顔を見られてるんだ!それがミスだ!・・顔を見られたら殺す。それが俺達のやり方だ!」
そして、また静かな口調で話しはじめた。
「間抜けな物盗りが、ほんの出来心で泥棒に入った。見つかって、追いかけられて
咄嗟に刺した。その後、怖くなって、絶望的な気持ちになり、自ら命を絶った。・・だな。」
内村は、そう言い残すと部屋を出た。

内村は部屋を出て車に乗り込むと、電話をかけた。

「内村です。松本は、若いヤツに監視させておきます。ーーーーけじめをつけるように言っておきました。・・あいつは、警察の追求をかわせませんから・・自死か・・刺された男が死んでればいいんですが・・・。ーーーーはい。ーーーはい分りました。失礼します。」

東田は、現場出動の初日を終えると、仲間の救急隊員の誘いを断って、真直ぐ家に帰った。
気が張り詰めていたせいか、疲れがグッときた。
 2か月前に越してきたアパートには、身ごもの妻が待っている。
東田は家に帰るとすぐにシャワーを浴びた。
食卓には、初の現場出動を祝ってか、いつもより、少し豪華な食事が用意されている。
頭からバスタオルをかぶりながら、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

TVからニュースが聞こえる。

(えー今日午前8:40分頃、知多市ーー町のマンションで、不法侵入の男を取り押さえようとした男性 ツヤマ シンさんが刺され、先ほど死亡しました。犯人とみられる男性は、逃走中で未だ見つかっておりません。・・・・・)

1 件のコメント:

アラサーdeアラフィ さんのコメント...

あーーーーーーー!逝っちゃたぁ~(+o+)

津山さん…野球少年にあった時から
こうなる運命だったのかしら…?

韓国ドラマでは視聴者の叫びで展開が変わるのよ…

「消さないで~生かせて~」 (;O;)


ニュースは敵を欺くための罠だった…
とかさ…